まほろばでまた逢おう

死は好むべきものにあらず、亦悪むべきにもあらず。
道尽き安ずる、便ち是死所。
世に生きて心死する者あり。身亡びて魂存する者あり。
心死すれば生くるも益なし。魂存すれば亡ぶも損なきなり。
死して不朽の見込みあらばいつでも死すべし。
生きて大業の見込みあらばいつでも生くべし。

吉田松陰

 

もののふシリーズ最終章 舞台「駆けはやぶさ ひと大和」観てきました。

この作品が発表された時、大好きなもののふシリーズが帰ってくる嬉しさとそれが終わってしまう寂しさの2つの気持ちがありました。そして観劇の日が近づくにつれて、だんだんと怖くなりました。きっと素敵な作品であると信じていましたが、それでももののふ達の物語がすべて終わってしまうというのがとても怖かったです。大千秋楽を終えて、「最終章」にふさわしい素晴らしい作品でしたが、だからこそ、今、とても寂しいです。もう、あの時代を駆け抜けたもののふを舞台上で観ることは叶わない。

 

もののふシリーズ、すごく良い作品でした。わたしは日本史に明るくないので理解するのに時間がかかる場面も多々ありました。でも、これは歴史物である以前に人間の物語でした。誰かが誰かに憧れたり、同じ志しを持つ人と何かを成し遂げようとしたり、それでぶつかったりする、熱い日本人の物語でした。

 

『憧れ』、この作品の至る所で見受けられた感情です。貞吉は悌次郎に、悌次郎は貞吉に、白虎は新選組に、斎藤一は白虎または土方に、、、と、誰もが誰かに憧れているし、誰もが誰かの「憧れの背中」でもありました。

憧れてたその背中に手を伸ばして描いた夢 空の蒼さは激しさと切なさと希望 笑いあった時間があるから惹かれあった想いがあるから強く強くまた巡り会うように

 逢いたいからその背中を追いかけて志す想い 遥か高くへ憧れと切なさと希望 信じあった仲間がいるから守り抜いた絆があるからいつか届くように名前を呼んで  

『憧れの背中』

 

そして、1番多くの憧れを背負ったのが近藤さんと土方さんなんじゃないかと思います。前2作では近藤さんは登場せず、土方さんは完璧な存在として登場していました。近藤さんは、そんな強くて完璧な土方さんが慕っている最強の存在です。

かけ隼の近藤さんは、力強くて豪快で愛嬌のある人でした。近藤さんを演じたのが的場浩司さんで良かったなあと思います。すごく明るくて強くて優しくて、そりゃあみんなに好かれるだろうと思いました。まさに新選組隊士たちの「おとのさま」的存在でした。

また、新選組以外にも憧れられる人物でした。近藤さんは、勝海舟と親友だと言います。おそらく以前は同じ志を持っていたのでしょう。しかし、勝先生は戊辰戦争では敵となります。勝先生は、幕臣である以前に日本人だと言っていました。お互いに日本のことを考えた結果敵対し、それでも親友であることは変わらないというこの2人の関係がわたしは大好きです。また、近藤さんは勝先生に、土方は親友でも兄弟でもなく「夢」だと伝えます。そして、土方さんを撃とうとする伊藤博文に「こいつを撃ったら絶対に許さん」と言い、土方の死を食い止めます。近藤さんの死に場所は用意した勝先生は、近藤さんの「夢」である土方さんの死だけは必死に止めるのです。近藤さんの「夢」を終わらせないために。

 

もふ虎、つむ鴨、かけ隼と、三作品すべてをひっくるめて土方歳三の物語が完成されたのかな、と思います。それほどに、土方さんはもののふシリーズにおいて要となる人物でした。わたしは荒木さんのオタクなので、どうしても土方さんを贔屓して見てしまうからかもしれないけれど。前2作では土方さんは完璧な人物だと言いました。しかし、かけ隼の土方さんは人間味に溢れていました。もふ虎とつむ鴨では、怒鳴ることはあれど大きく表情を崩すことは一切ありませんでした。しかし、かけ隼の、新選組にいる土方さん、近藤さんの隣にいる土方さんは違いました。顔をくしゃくしゃにして笑うし、くしゃくしゃにして泣いていました。本当に、近藤さんのことが、近藤さんが作った新選組が大好きだったのだと思います。

つむ鴨の土方さんの台詞に「生きるために、笑ってみろ」というものがあります。そしてかけ隼では近藤さんが何度も「笑え」と言っていました。土方さんは近藤さんの志を引き継いで、笑うことを隊士に命じていたんだと気付きました。

土方さんは鬼の副長でした。平隊士の面倒を見て愛情が湧いてきたという沖田に、愛情なんて余計なものだと吐き捨てていました。しかしそれは徐々に変わっていきました。近藤さんを失い、隊士たちを次々と失ううちに、自分の新選組への愛情に気付いたのだと思います。自分は己の誠を成し遂げるためなら死んでも良いけど、新選組の隊士たちには誠を捨ててでも生きていて欲しい。だから斎藤さんに「生きろ」と命じるし、五稜郭の戦いも1人で臨もうとしました。それは叶わなかったけれど。新選組の隊士たちにも誠の心はあり、みんなで誠を背負い、大和に向かったのです。最後の戦いに臨むとき、土方さんは「新選組"副長"」と名乗ります。そのこころの中には局長近藤勇が生きていたのだと思います。五稜郭で土方さんは死んでしまいますが、その土方さんの志も中島登をはじめ、新選組隊士、榎本武揚斎藤一の心の中で生きていくのだと思いました。

 

書きながら涙が止まらないのでこの辺で一旦締めたいと思います。花村くんの演技が良かったとか沖田の殺陣が綺麗だったとか斎藤一がシャブいだとか榎本さんの顔が良いって話もしたいのですが、またエントリーを分けてハイテンションでゆっくりと書きたいです。

最後に、これは作品本編とは関係ないのですが、カテコで的場さんが出る時、荒木さんが的場さんをすごい幸せそうな笑顔で見つめながら舞台のセンターまで見届けるの最高でした。あれは土方さんとして近藤さんを見てるのか、荒木さんとして的場さんを見てるのかどっちなんだろう。

 

死は好むべきものにあらず、亦悪むべきにもあらず。
道尽き安ずる、便ち是死所。
世に生きて心死する者あり。身亡びて魂存する者あり。
心死すれば生くるも益なし。魂存すれば亡ぶも損なきなり。
死して不朽の見込みあらばいつでも死すべし。
生きて大業の見込みあらばいつでも生くべし。

それが、マホロバよ!